騎士団長殿下の愛した花
胸にすがりついて思いっきり拳を叩き付ける。何度も、何度も。少女の力とは言えかなり痛い筈だ。それでもレイオウルは微かな呻き声すら漏らさない。
視界が滲む。目に溜まった涙がぼろりと頬を転がった。次々に溢れて止まらない。
「なんでよ!行きたくないって言えばいい!仮病でも何でも使えばいいのに!レイが行かなくたって、他にもいっぱい、」
「フェリチタ」
ぱし、といとも簡単にレイオウルが彼女の手を受け止めた。
「戦うのは怖いよ。それ以上に……お前にもう会えないかもしれないことが」
フェリチタが敢えて口にしなかった言葉に息を呑む。
「怖いけど……僕は戦いたくないわけじゃない。お前をもう見れないかと思うと、少し後ろ髪を引かれるけど」
ぽろぽろと落ちてくる涙をレイオウルは笑みで受け止める。
「僕はお前を守るために戦いに行くんだ。だから行きたくないなんて言わない」
自分の言葉が卑怯だとわかっているんだろう。唇が微かに歪んでいる。
「じゃあ……じゃあ私も連れて行ってよ!元はと言えば私が原因なんだよ!?剣も使えるし馬にも乗れる!1人だけ危険に晒すなんてできない!ねえ、足は引っ張らないから、お願い……」
「お前は来るな」
素っ気ない口調でぴしゃりと拒否するレイオウル。
「……きみの口づけは、いつだって私にそばにいろって囁いてくるのに。きみが言わなくたって……伝わってる」
「……うん」
「きみも私も、お互い無しじゃ……もう生きてもいけないのに?」
レイオウルは凪いだ顔を見せてくるばかりで。
「どうしてそんな事が言えるの……っ」
これでもかと顔を歪めた少女に、青年はただ微笑む。
「フェリチタ。僕に、行けと言って欲しい」
「…………私に言わせようとするなんて、きみは……卑怯だね」
彼の返答は、いっそ清々しいまでの満面の笑みだった。