騎士団長殿下の愛した花
あの後、暫くは周りとの記憶の齟齬に打ちのめされたらしいが、状況はよくわからないものの立ち止まっていても仕方が無いと、まずレイオウルはアルルが言っていたスパイを探したのだという。
ヤーノとレイオウルが両族それぞれの方向から調べたことにより繋がりが露見したのだが、驚いたことにそのスパイは第三王子のユーレンだった。なるほど、王族の彼ならかなりの機密情報が漏れていたことも頷ける。
彼は第三王子である以上、出生順に王位継承権が与えられるこの国ではなかなか王位に就くのは難しい。そのため森人に協力して向こう側との繋がりを持ち情報を手に入れ、両族が潰し合った所でタイミングを計って森人裏切ることによって全て自分の利益にしようとしていたらしい。
メリキス、レイオウルは同じ母親なのだが、実はユーレンだけ異母兄弟なのだそうで、もしかすると初めは権力を持ちたかった彼の母親が入れ知恵をしたのかもしれない、とレイオウルは語った。しかし彼女はもう亡くなってしまっているので真実はわからない、とも。
少なくともユーレンが6、7歳の時には森人と通じていた事になるので、そんな幼い時から弟が裏切っていたのだと、レイオウルは兄として信じたくないのかもしれなかった。
森人側はどうなったかというと、フェリチタの事だとは思い出せないものの前からアルルを怪しいと踏んでいたルーベンにより彼女が森人にも薬を盛った事実が発覚し、それを察知したアルルは姿を晦ました。
解毒剤の残りは部屋になく、またアルル以外その作り方を知らなかったため、もしかしたら解毒剤で皆のフェリチタの記憶が取り戻せるかもしれないと思っていたレイオウルの目論見は外れた。
また、アルルの失踪によって森人のトップはルーベンに変わった。武人であったため武力行使に奔るのではと人間側は危惧していたが、盲目になった後には彼の攻撃的な性格はすっかり鳴りを潜めておりそのような事態にはならなかった。彼の息子であるヤーノは森に帰ることが許され、親善大使に任命されて再びクリンベリルへ派遣されたのである。