騎士団長殿下の愛した花
レイオウルがそっとフェリチタの肩に触れて、にっこりと笑った。
「フェリチタ、僕の花嫁だ」
しん、と一瞬にしてその場が静まり返る。レイオウルたちの会話を盗み聞きしていたらしい周りの貴族達が息を呑む音が聞こえる。
「花嫁……とは、まだ各家から候補者を募っている段階というお話では……」
「彼女は公爵令嬢だ。身分もしっかりしているし問題は無いはずだよ。何より僕達は、愛し合っている」
フェリチタはレイオウルに肩を引き寄せられて顔を近づけられる。息がかかるほどの距離に顔が熱くなる。どうにか顎を引くのが限界だった。
レイオウルは満足そうに微笑んで、次いで臣下を鋭く睨み付ける。
「それとも、王の決定に異議を唱えるつもり?」
「……あ、いえっ、まさか、滅相もございません!」
その声が合図となったように、聞き耳を立てていた者達がぱっと散る。当然のようにできた道を、レイオウルはフェリチタの肩を抱いたままゆっくりと歩いていく。
堂々とした足取りで部屋に入ったところで、レイオウルは糸が切れたようにはぁあああ……と大きく息を吐いてフェリチタの肩に凭れかかった。
「ごめん、フェリチタ。こんなに大事になるつもりじゃなかったんだけど……」
「う、ううん、王様の花嫁問題なんて大事になっても仕方ないと思う。ていうか……大丈夫なの?公爵令嬢とか言っちゃって」
「それは大丈夫。僕はどうしたらフェリチタを花嫁にするために長い時間かけて計画を立てたんだから。やっぱりどうしてもある程度身分がないと周りに認めてもらえないから、お前を兄上に養子にしてもらうのは早い段階で頼んでたんだよ。
心配要らないよフェリチタ。準備が済んだから迎えに行ったんだ」
フェリチタは言葉を飲み込んだ。いや、違う。口から何も出てこなかった。