騎士団長殿下の愛した花
「僕がさっき紹介したんだ。彼女はフェリチタ」
「フェリチタ様、まあ、この方が……もう噂になってますよ、ぽっと出の令嬢が王妃の座を射止めそうだって」
(ぽっと出か、まあ確かに皆からしたらそうだよね)
不穏な空気にどきりとしてルウリエと見つめ合う。納得した様子だったがやはり怪しまれているのだろうか。目を逸らさないように意識しながら瞳の中心を見つめ続ける。そして……
ルウリエは頬に手を当てて満足そうに大きくため息をついた。
「はぁ~っ、美しいですわぁ……陛下、当然婚儀の際は私がフェリチタ様を担当させていただけるのですよねっ?」
目を輝かせたルウリエに詰め寄られてレイオウルは身を反らせながら数度小刻みに頷く。
「あ、ああ……勿論、頼むよルウリエ。それと頼みたい事があるんだけど……彼女に社交ダンス用の靴を持ってきてくれないかな」
ルウリエが出て行った後、突然自分の話になったことに驚いて思わず食って掛かる。
「えっ、私の?……靴?どういう事?」
「実は、フェリチタ……お前との婚約発表を一週間後の夜会でしようと思ってるんだけど、その時に僕とファーストダンスを踊ってもらわないといけないんだ。踊ったことは?」
「ない……けど、そんな大切な夜会で失敗できないよね……」
深刻そうな面持ちをしたフェリチタにレイオウルが大丈夫だよ、と笑った。
「一週間あるし、練習しよう。ごめん、片腕が無いからどうしてもやりにくいと思うんだけど……ステップだけでもちゃんと踏めれば形にはなる」
「私、大丈夫かな」
「僕は心配してないよ。馬に乗れるくらいだから運動神経は良いはずだしね」
言いながらするりとフェリチタの腰を撫でる。ぴくりと身体を揺らし非難がましい目を向けた彼女にレイオウルは耳元で囁いた。
「だって、ふたりっきりだよ……?」
「……もう……レイってば」
端正な顔が近づいてくるまま、フェリチタは口付けを受け入れた。柔らかな感触に目を閉じる。4年の歳月を埋めるように積極的に触れてくる彼の事を、全く変わっていないと思うと言えば嘘になる。
でも、絶対守るからと言って握った彼の手がいつかのように震えていたことに、フェリチタは気づいていた。