騎士団長殿下の愛した花
濃紺のシンプルな燕尾服を着ていて、華美な装飾が無いのがまた素材の良さを引き立てている。色を同系統で揃えたのはルウリエだろうとフェリチタは思った。
いつもと違い前髪を固めて上げているのだが、普段は長めの前髪に僅かに遮られている琥珀色の瞳が真っ直ぐこちらを見るので、なんだか心臓がやけに早く脈打つ。
「どうかした?」
「あっ、ううん、何でもない!」
慌てて視線を逸らすと、ふっと柔らかく笑う気配がした。
「フェリチタ、そのドレス似合ってるよ。本当に綺麗だ……このまま誰にも見せずに連れ去りたいくらいにね」
「あ、ありがとう……レイも、凄くかっこいい、よ?」
返答が無いので視線を戻すとレイオウルが真っ赤になって顔を手で覆っていた。
「……その表情(かお)、久し振りに見る気がする」
「いやっ、フェリチタにかっこいいとか言われるの、初めてだったから……」
「あれ、言ったことないっけ?でもいつも思ってるんだけどな」
フェリチタが呟いて首を傾げるとレイオウルが我慢ならない様子でぎゅっと抱きつく。
「今はやめて、顔赤すぎて出れなくなる……そうだ、夜会なんてサボろうか?」
「えっ!」
「冗談だよ……僕は今日のためにずっとやってきたんだから。さ、呼ばれたよフェリチタ。大丈夫、1曲踊る以外は僕に任せてくれたらいい」
レイオウルにエスコートされ場内に入り、彼に促されるまま上座に座った。無数の視線が無遠慮に突き刺さるがその殆どは純粋にフェリチタを値踏みするようなもので、思っていたほど悪意は感じなかった。もしかすると噂話が貴族達の間にも広まっているのかもしれない。