騎士団長殿下の愛した花

部屋に戻って簡素な服に着替え、寝台に寝転んだ。

(こうなったらマルクス本人も暫く夜会で大きく動けないだろうし、妹のリーメイが直接嫌がらせをしようとしても動きにくくなると思うんだけどな……まあ、あの感じを見る限り、シャノット家はやっぱり元から外聞はあまり良くない感じだったけど)

彼らを牽制するため、そしてフェリチタが周りに認めてもらうためには彼女自身が行動するしかなかった。納得してやったつもりだったけれど、気が重いのには変わりない。

(上手くいったから良かったけど、やっぱりちょっと、怖かったな……)

瞼を閉じて夢の世界へ滑り落ちかけた時、扉が開く音がした。兵が止めないという事は恐らくレイオウルだ。フェリチタが目を閉じたままでいると、上に影がかかったのがわかった。

「フェリチタは……変わらないね。格好良過ぎるよ、見てるこっちは心臓に悪い」

苦笑を含んだ声が降ってくる。

「……覚えてる?フェリチタを攫って、城で目が覚めた時のこと」

そっと額に撫でられた。何度もするので、擽ったくて身を捩ってしまう。

「実はあの時も、今みたいにこうやってフェリチタの顔を見てたんだ。どこを見ても綺麗だな、目が覚めたら僕にどんな声で何を話すのかな、って……」

ぱちりとフェリチタが目を開ける。蒼穹の瞳いっぱいに金を映して微笑む。

「頭をぶつけて、顔を真っ赤にしてた時だね」

「そ、そうだね……なんでそんなこと覚えてるの……」

「私ね、その時はやっぱり立場的にレイの事受け入れられなくって。でも……どうやっても、きみに惹かれていくのは止められなかった」

恥ずかしそうに顔を背けていたレイオウルがぴたりと動きを止めた。
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