エリート外科医の一途な求愛
そうは言ったものの――。
土曜日の夜、一日目のシンポジウムを終えて教授をホテルからお見送りした後、木山先生の付き添いは断れば良かったと後悔した。


教授を乗せたタクシーがホテルの車寄せから走り出し、見えなくなるのを待ってから、自分の部屋に戻ろうとした私の腕を、木山先生がグイッと掴み上げてきた。


「さあ、夕食に行こうか。仁科さん」


昨日の夜は教授と三人だったからいいけど、いくら出張中とは言え、夕食まで付き合うのは義務ではないと思う。


「すみません。私、あまり食欲ないので、ホテルで適当に済ませますから」


そう言って、あくまでもビジネスライクの愛想笑いだけ浮かべると、木山先生はチッとわかりやすい舌打ちをした。


「明日のシンポジウムでのディスカッション原稿、素人目線で客観的な感想欲しいんだよ。それも君の仕事だろう?」


不機嫌な目で見下ろしながら正論を突かれて、私は一瞬口籠った。


「それともなんだ? 教授の手前出張に同行したはいいが、現地では医局のクズの付き添いは出来ないってことか?」


腰に手を当て、威圧感たっぷりにふんぞり返る木山先生に、私も返事を逡巡した。


求められた内容は確かに私の仕事の範囲内。
でも、それなら原稿だけお預かりして、後で返せば済む話だ。
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