エリート外科医の一途な求愛
「出張帰りでお疲れのところ、急にお願いしてしまい、すみません」


ブロンド美人は、自分をブラウン博士の個人秘書だと自己紹介してくれた。


「メグ、と言います。ハヅキはハヤトの秘書でしょう?」


丁寧な日本語の挨拶にホッとして握手を返しながら、向けられた質問には慌てて首を横に振って否定した。
各務先生個人の秘書ではないと説明すると、『医局秘書』という役割に馴染みがないらしい。
『ん?』と首を傾げるメグさんに、辺りを気にしながら小声で説明を続けた。


その横でブラウン博士は、眼下で繰り広げられているオペに再び見入っていた。
同業者ならではの真剣な目。
だけどまるで少年のようにキラキラした瞳に、私もそおっとその視線の先を見遣る。


そこではまさに、各務先生と教授が向き合ってオペを進めていた。
この間の撮影の時と同じように、二人がキビキビと器具を指示する声がモニターを通して聞こえる。


朝一からのオペだと聞いたけど、一体なんのオペなのか。
患者さんの術野に目を凝らす二人のドクターは、ブルーのユニフォームの胸元やキャップの縁にじっとりと汗を滲ませていて、時折器械出しのナースが額の汗を拭く様子も見られる。


患者さんの術野を目にするのはやっぱり怖いけれど……。
いつも以上に緊迫した雰囲気に、私もそっとガラス窓に手を置いた。
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