エリート外科医の一途な求愛
オペに興味を示した私に気づいて、ブラウン博士が英語で話し掛けてくる。
それをメグさんが通訳してくれた。


「昨夜遅くにドナーが現れてね。明け方から、生体心移植手術が行われているのよ」

「し、心移植……!?」


思わず声を上げて目を丸くした私を、ブラウン博士は口角だけ上げて笑う。
そして、オペを進める各務先生の手元に、再び見入ってしまう。


それも仕方ない。
医学に詳しいわけじゃない私でも、これが国内ではまだ実績の少ない難しいオペだということはわかる。


重症心臓疾患を抱える患者さんにとって、心臓移植は命を繋ぐ唯一の希望と言ってもいい。
だけど日本ではドナー不足や費用など様々なハードルがあり、患者さんは海外に渡って手術を受けている。
それもほんの一握り。
多くの患者さんは、海外に渡ることすら出来ないのが現状だ。


そんな大変なオペを、まさに今各務先生が執刀しているのだ。
そりゃあ、大学や病院前の報道陣の多さも頷ける。


「アメリカではハヤトと何例も手掛けたオペだ。日本ではなかなか機会が無くて腕が落ちるなんて言ってたけど、むしろ私とやっていた時よりずっと腕を上げてるじゃないか。ワクワクするね」


目線はずっとオペ室の各務先生に向けたまま。
どこか興奮気味なブラウン博士の呟きを、メグさんはわざわざ私にも伝えてくれた。
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