エリート外科医の一途な求愛
それを聞いて、私は博士の隣から各務先生を見つめる。
もちろん、見学ルームにいた他の講師や助教たちも、各務先生と教授の手技を固唾を飲んで見守っている。


「各務先生、カッコいい……」


ガラスの端っこに手を突いていた男性の助教がそう呟いて、ゴクッと喉を鳴らすのを聞いた。
もちろん無意識だろう。
彼は瞬きも忘れて眼下のオペ室を見つめている。


私はこの間ここに入った時も、人垣に隠れて各務先生の手元は見ないようにしていた。
各務先生が取材を受けたドキュメンタリー番組は私も観たことがあるけれど、テレビでも彼の手元を直視することは出来なかったのに。


私は助教や博士の熱のこもった言葉に導かれるように、器具を操る各務先生の手に目を凝らした。


あの手が、患者さんの命を繋ぐ。
あの手が、患者さんの人生を再生する。


まさに『神の手』だ。
そう思ったら、今まで目を逸らしていた物を真っすぐ見つめることが出来た。


目の前で、各務先生が患者さんに命を注いでいる。
それをこうして見つめていることに、ブラウン博士と一緒になって興奮して、気分が高揚するのを感じた。


静かに強く脈打ちながら、加速する私の鼓動。
無意識に胸元のシャツをギュッと握り締めた。


――どうしよう。
ドキドキが止まらない。
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