エリート外科医の一途な求愛
火曜日の医局は、朝から昨日の各務先生のオペの話題で持ち切りだった。
普段は滅多に朝から医局に顔を出さない研修医たちが数人いて、みんな興奮しながら新聞を覗き込んでいる。


美奈ちゃんが期待していたように一面トップとは言わないまでも、東都大学附属病院で行われた生体心移植は、かなり大きな記事にされていた。


緊急オペだったから、研修医たちのほとんどが見学ルームに入ることが出来なかった。
それが悔しいのか、彼らはいつもよりかなりヒートアップしている。


「各務先生って、アメリカでは移植手術を専門にしてたんでしょう?」

「ペンシルベニアのブラウン先生が、見学ルームで『Fantastic!』って興奮してたって聞いた。見たかったなあ……」


研修医たちは、男性も女性もほとんど陶酔したように口々に話している。
それを聞いていたのか、奥まったソファから木山先生が立ち上がった。
折り畳んだ朝刊を叩き付けるようにしてテーブルに置き、研修医たちの間に割って入っていく。


「日本にいるのがもったいない人だな。移植手術を極めたいなら、あの人の舞台はここじゃないだろうに」


さり気なく呟かれたその言葉に、研修医たちは『そうですね~』と相槌を打っている。


デスクでパソコンに向かう私の後ろを、白衣のポケットに手を突っ込んで通り過ぎる木山先生を、私は一瞬キーボードを叩く手を止めて振り返った。
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