エリート外科医の一途な求愛
ドアに向かっていくその背を、なんとなくゾワゾワした気持ちで見送る。


あの人が言うと、たとえ称賛の意味があったとしても、追い出す為の言葉にしか聞こえない。
木山先生の白衣の裾が見えなくなるまで見送って、私はぼんやりと医局を見渡した。


時計は朝九時を示し、研修医たちも急ぎ足で病院に向かっていく。
いつもとそれほど変わらない空気が医局内に立ち込めるのを感じて、ホッとするのに落ち着かない。


私はパソコンを操作して、各務先生の過去の学会論文が収められているフォルダを開いた。


『日本における生体心移植の展望』

『心移植後に想定される拒絶反応について』


論文の多い木山先生と違って、私は意外と各務先生が専門に研究しているテーマを知らない。
文献探しは頼まれても、それがどう彼の論文に活かされていくのか、あまり意識していなかった気がする。


「心移植……か」


無意識に呟いた途端、私の脳裏に木山先生の言葉が浮かび上がってくる。


確かに日本にいるのがもったいない人かもしれないけど、日本に彼の舞台がないんじゃない。


各務先生は、日本の心臓外科医会の未来を背負って立つドクターだ。
それは絶対間違いない。
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