エリート外科医の一途な求愛
だって、わざわざ各務先生が私を送ろうとするなんて、意味があるとしか思えない。
時間とか飲んだ後の空気とか勘案したら、すごく意味深な気がして、私の心臓は怖いくらい加速していく。


なのに、メグさんはクスッと笑っただけで、奥に座っているブラウン博士に何か伝えている。
きっと、『ハヅキはハヤトが送るって』とでも言ってるんだろうけど……。


メグさんの肩越しにヒョコッと顔を出した博士が、酔いで頬を紅潮させたまま、『ハヤト、Good Luck!』と大きな声を上げて親指を突き立てた。
彼に苦笑を浮かべる各務先生を見ているだけで、私の喉は妙な緊張でカラカラに渇いてしまう。


「See Ya!」


二人を乗せて走り出したタクシーを見送って、各務先生は軽く手を振りながらそう叫んだ。
車が流れに乗って小さくなっていくのを眺めてから、各務先生はふうっと肩を動かして息をつく。
それを見て、私は握られたままの手を引っ込めようとした。


「せ、先生。私、一人で大丈夫です。ここで失礼します!」


ぎこちなく笑い掛けながら、手を離してもらおうとした。
なのに。


「逃げるな」


短い言葉と同時に、彼の手に力がこもるのを感じる。


「下心丸出しで送るって言ってるの、わかるだろ」


そんな素っ気ない呟きに、私の心臓は根元から揺さぶられるように震えた。
< 154 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop