エリート外科医の一途な求愛
各務先生の渡米を明日に控えたその日。
木山先生が出席する学会が、都内の他大学の創立記念講堂で開催された。
客席は心臓医療に従事するドクターや医学生などで埋め尽くされた。
午前九時から始まった論文発表の講壇には、今、二人目のドクターが立っている。
木山先生はこの後、三番目での発表だ。
彼が支度を整えている控室に入ると、まだノーネクタイのまま、鏡台前の椅子にふんぞり返って座る姿が私の視界に飛び込んできた。
「お疲れ様です。飲み物、足りますか」
そう声を掛けながら中に踏み入ると、『いい』と短い声が返された。
私が近寄っても、彼の目線は手元に落ちたまま動かない。
そっと見遣ると、その手元にあるのはこの後発表する論文ではなく、ごく普通の文庫本だった。
学会慣れしてないドクターだと、発表のギリギリまで自分の論文を手放さないのに、木山先生はさすがに余裕だ。
そう思いながら肩を竦め、邪魔にならないように部屋の隅に控えようとした。
そんな私に、彼は本から目を上げて横目を流してくる。
「君、こんなとこいていいのかー?」
淡々とした声。
私は唇を結んだまま、そっと彼を見返した。
木山先生が出席する学会が、都内の他大学の創立記念講堂で開催された。
客席は心臓医療に従事するドクターや医学生などで埋め尽くされた。
午前九時から始まった論文発表の講壇には、今、二人目のドクターが立っている。
木山先生はこの後、三番目での発表だ。
彼が支度を整えている控室に入ると、まだノーネクタイのまま、鏡台前の椅子にふんぞり返って座る姿が私の視界に飛び込んできた。
「お疲れ様です。飲み物、足りますか」
そう声を掛けながら中に踏み入ると、『いい』と短い声が返された。
私が近寄っても、彼の目線は手元に落ちたまま動かない。
そっと見遣ると、その手元にあるのはこの後発表する論文ではなく、ごく普通の文庫本だった。
学会慣れしてないドクターだと、発表のギリギリまで自分の論文を手放さないのに、木山先生はさすがに余裕だ。
そう思いながら肩を竦め、邪魔にならないように部屋の隅に控えようとした。
そんな私に、彼は本から目を上げて横目を流してくる。
「君、こんなとこいていいのかー?」
淡々とした声。
私は唇を結んだまま、そっと彼を見返した。