エリート外科医の一途な求愛
「各務先生、明日出発だろ? 日本最終日くらい、イチャイチャしといたらどうだ?」

「……木山先生。何度同じこと言わせるんですか。私は……」

「美奈ちゃんからなんとなく聞いたよ。俺も各務が可哀想だと思ったけどな」


ムッとするのを抑えながら言い返すと、木山先生はフッと口角を上げて笑っていた。
サラッと言いのけられたその言葉に、私はビクッとしながら口ごもる。


「俺の控室にいながら、各務のことばっかり考えられてもね。その方が気が散る」


静かに言われて、私が思うほど『余裕』でもないのかな、とさっきの考えを反省した。
彼の言う通り、いても言い合いになるのなら、私はそばにいるべきじゃないかもしれない。
そう感じて、客席に回ろうと決めると、私は木山先生に頭を下げた。


「私、客席で発表聞いてますね」


彼は本から目を上げ、その視線を私の方に向けてくる。
ゆっくりとページを捲る指が、一瞬止まったのを見た。


「頑張ってください」


それだけ言って素早く頭を下げると、私は控室から出た。
始めはゆっくり、そして控室から離れるごとに、歩幅を大きくして駆け出した。


講堂のロビーに着くと、中から発表の声が漏れ聞こえていた。
発表途中ということで、人の姿は疎ら。
それでも所々で立ち話をする人もいる。
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