エリート外科医の一途な求愛
それを横目にロビーを突っ切り、講堂の後方から中に入ろうとして、私はドアに掛けた手を引っ込めた。


「……葉月」


正面ドアから各務先生が入って来るのが視界の端っこに映った。
その姿を見止めて、私の胸が一瞬ドクンと疼くように音を立てる。


「先生……」


今日が医局最終日のはず。
私は木山先生の学会同行だから、彼が渡米する前には、もう会うことも話すこともないと思っていた。


渡米が決まってから、各務先生は残った仕事に追われていた。
医局で姿を見る機会もほとんどなかったけど、こうして改めて向かい合うと、ちょっと痩せたように思う。


「各務先生。……ちゃんと食べてますか」


私の顔は緊張で強張ってしまってたんだろうか。
各務先生は足を止めて、わずかに苦笑を漏らした。


「まあ、俺なりに」


短い簡潔な返事。
きっと、会うのはこれが最後になるのに、ただの世間話みたいな会話を始める私に呆れてるんだろう。


「この間見かけた時より、痩せた気がします。身体が資本なんだから、大事にしてください」

「夏場はいつも痩せるんだよ、俺。って言うか、今話すの、それか?」
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