エリート外科医の一途な求愛
目を伏せながら笑って言われて、私は思わず唇を噛み締めた。
私の反応に、各務先生は困ったように首を傾げると、こっちに足を踏み出してくる。


「今日は一日、木山先生の学会同行だって聞いたから、最後にちゃんと会いたかった」


そう言いながら、各務先生は私の前で足を止める。


「行ってくる。アメリカ」


思ったより静かで淡々とした声が、私の頭上から降ってくる。
それを聞いて、思わずギュッと目を瞑ってから、私はそっと顔を伏せた。


「はい。……行ってらっしゃい」


今日医局で彼に会うことはないと思っていたから、最後に会うのがいつかわからずにいた。
おかげで、今日までずっと言いそびれていた言葉。
もう言えないと思っていた言葉。
口にしたら、なんだか胸が詰まる想いに駆られた。


「三年で、帰ってくる。誓った通り」


続けて言われて、私はそっと顔を上げた。
上目遣いの視線をおずおずと向ける私に、各務先生は目を細めて柔らかく笑った。


「そしたら、改めて口説きにかかるから。……それまで、結婚しないで」

「っ……」


そんな言葉に、きゅんとした。
鼻の奥の方がツーンとしてきて、私は慌てて顔を背ける。
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