エリート外科医の一途な求愛
見学ルーム内のみんなが人垣になってくれたおかげで、私は再びそっと眼下のオペ室に目を向けた。


私には各務先生の手元は見えず、術野が遮られていることにホッと息をつく。
私は医療従事者ってわけじゃないもの。
やっぱり生で手術を見るのは怖い。
私の視界には、ゴーグルを装着した各務先生の目元から上だけが映り込んだ。


美奈ちゃんが絶賛する通り、術野に真剣な瞳を向けるオペ中の各務先生は、キリッとしていてカッコいい。
悔しいけれど目が行くし、魅せられてしまう。


腕前だけじゃなくビジュアルも天下一品の、超エリートドクター。
そりゃあテレビ番組のプロデューサーも、何度でも撮りたいって思うだろう。


わかるんだけどね……。


その高瀬さんは、見学ルームの端っこで、オペ室内のカメラマンが撮影する映像をリアルタイムでチェックしている。
持ち込んだパソコン画面を注視している高瀬さんの背中を、私はそっと見つめた。


なんとか各務先生から取材OKを取り付け、高瀬さんに連絡した。
もちろん先生が私に出した条件も伝えて、プロデューサーの方から『仁科さんと会食してもらう意味が……』とでも渋ってもらおうかと思ったのに。


『助かった、ありがとう、仁科さん!!』


目論見に反して手放しで喜ばれ、取材の申し入れからほんの二週間で、今日の撮影スケジュールが組まれてしまった。
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