エリート外科医の一途な求愛
今日の撮影は手術風景だけ。
明日は大学での講義風景と病棟回診の撮影が予定されている。
そして、私の気を重くさせる会食は、週末土曜日の夜にセッティングされていた。


「……はあ」


周りの人に気づかれないように、私は肩を落として小さく溜め息をついた。
もちろん、みんな各務先生の手技を食い入るように見つめていて、私の溜め息一つ程度、気に留める余裕のある人なんかいない。


時折、教授が各務先生の手技について学生に問題を出して答えさせる以外は、誰も声を発しない。
呼吸音すら憚ってるんじゃないかと思うくらい静かだ。


オペ室からは、『鑷子』やら『鉗子』やら、器具を指示する各務先生の声の他に、心臓モニターの電子音や人工呼吸器のシューシューという音も聞こえてくる。
外回りナースがバイタルを読み上げるのを聞きながら、私は再び各務先生の姿を見下ろした。


今、彼の隣には、同じブルーの手術着を着た器械出しのナースがいる。
入職時からずっと手術室の所属で、勤続十年、三十二歳のベテランと言えるナース。
チームとして固定されているわけじゃないけど、各務先生のオペに入る割合が高いと聞いたことがある。
きっと、各務先生からの評価も高いからだろう。
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