スターチス


反対をしてるわけじゃないらしいけど、やっぱり“恋人”になるとそれなりの行為が伴ってくるっていうお兄ちゃんの言葉は堅苦しくて父親みたいな口調だったけど、そういうことをするのが嫌だと言う。

自分は彼女とするくせにあたしとゆーくんはダメな理由を聞いてみると“ゆーくんだから”嫌というよりもミキ兄なりの葛藤があるらしい。

きっと男の友情っていうのは女の友情と同じで色々あるし親友なだけあって色々知りすぎてるのかもしれない。
それを心配してくれてるんだろうけど、心配ないよって言っても心配は尽きないらしい。

ここまで言われたら経験値の低いあたしは何も言えなくなって、こうしてミキ兄の言われたままになってるけど、ゆーくんの彼女としてはそろそろこの反動がくるんじゃないかって思ってる。
それを受け止めるのはあたしだよね?って一抹の不安すら覚える。

「ミッキー、相談なんだけど」
「なんだ?」

今言うんだ、そう思った。
これは数日前からゆーくんが考えてたことで相談ではなく提案のような気がするけど、ゆーくん曰く「これなら大丈夫!」ってあまりにも推すもんだから了承した。
妹のあたしが思うに世の中、というかミキ兄はそんなに甘くないと思う。

「今度4人で旅行行かない?」
「4人?」
「そう。ひろっぺ連れて4人で泊まりで!」
「泊まり……?」
「そう!」

ニコニコした顔で提案…じゃなく相談をするゆーくんに眉間に皺を寄せたミキ兄。
あたしはもちろん間に入ることなく成り行きを見守ってる。

このお泊り会、前のデートの時にとうとう痺れを切らしたゆーくんがあたしを放置して考えた提案、じゃなくて相談事。
どうしても長い間一緒にいれないあたし達がどうやったらずっと一緒にいられるかを考えた結果、Wデートないし一泊お泊り旅行となった。

でも門限22時のミキ兄が二人きりの旅行を許してくれないのはゆーくんも承知の上。
ならば、ミキ兄の彼女の宏奈さんも連れて行こう!っていう話になった。

これなら絶対いける!という確信があるらしいゆーくんは自信満々に言っていたし、今だって満面の笑みだけど、ミキ兄がこの旅行を了承したとしても二人きりになることは難しいと思う。

ミキ兄は宏奈さんをすごく大切に思っているのはあたしも知ってる。
宏奈さんもミキ兄を大切に思ってるのは会わせてもらって知ってるし、あたしもすごく可愛がってもらってる。
だから二人も二人っきりになりたいんじゃないかってゆーくんは思うんだろうけど、それは違うと思う。
それとこれとはまた話が違ってくると思う。

「なんで旅行なんだ?」
「ひろっぺもミッキーも忙しくてなかなか会ってないじゃん。こんな時くらい有給使ってゆっくり過ごすっていう俺の提案。で、それに俺たちも便乗する。どう?」

にこにこしながら言うゆーくん。
ミキ兄も最初は眉間に皺を寄せてたけど、ゆーくんが言うことも一理あるのか「んー、でも聞いてみないとな」と言って前向きに考えるような返事をした。
それを見てたゆーくんはさらに笑顔になってる。

あたしは成り行きに任せることしか出来ないから宏奈さんとミキ兄の返事を待って、なるようになればいいと思ってた。


数日後、ミキ兄があたしの部屋にやってきて宏奈さんが休みを取れたことを教えてくれた。
つまり、一泊の旅行は決行。

ゆーくんに伝えたミキ兄は「鬱陶しいテンションで騒いでた」と言ってた。
親友であるゆーくんにそんな言い方はないだろうって思ったけど、あたしも想像できるから何も言わないでおいた。
宏奈さんがあたしと会うことを楽しみにしてくれてることや日にちなどを聞いて、最後に釘を刺された。

「絶対部屋は男女別にする。俺の目の前で間違いは犯すなよ」

わかってるよ、と返事をすればミキ兄は部屋を出て行った。
あたしにしてみれば、付き合ってる男女がキス以上のことをすることはおかしなことじゃないと思ってる。
それが当然の流れだってわかってるし、それ無しの恋愛は存在しないんじゃないかって思ってる。

あたしは初めてだけど、ゆーくん相手だし怖くない。
ゆーくんがそういう雰囲気を出さないから安心してる部分もあるけど、ミキ兄が心配するようなことは今のところない。
そうなったらそうなったでミキ兄だって諦めてくれるのかもしれないけど、そういうあたしの気持ちとはまた違うところで葛藤があるように見える。

この旅行、ゆーくんが思うように進まないのは目に見えてるけど、あたしは少しワクワクしてる。
ゆーくんと丸一日いられる幸せとミキ兄と宏奈さんの幸せな空気を見られること。
どちらもあたしには幸せなことだから楽しみにしてる。
< 79 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop