イジワル上司に甘く捕獲されました
タクシーから降りて、誰もいない自宅に帰りつく。

休みでもない、平日の夕方前に自室にいるなんて何だか変な感じだ。

フラフラと、とりあえず着替えや片付けをして。

リビングのソファにポスッと横になる。

「……連絡しなきゃ」

帰り際に言われた瀬尾さんからの指示。

同時に思い出す唇の感触。

再び胸の鼓動が高まる。

起き上がって、スマートフォンを取り出す。

番号を画面に表示させるけれど、冷静に話せそうになくて。

意気地のない私はショートメールで一言、帰宅の旨を伝える。

愛想も何もない事務的な報告メール。

「……迷惑かけちゃったな」

頭をよぎる藤井さんや金子さんの心配そうな顔。

「明日、きちんと謝らなきゃ」

誰に言うでもなく呟いた時。

まだ握っていたスマートフォンが振動する。

ビクッとして、手からソファに滑り落ちたスマートフォンの画面には。

一番話しづらい人の名前。

話をするかしないか、迷っている間も存在を主張するかのように振動し続けるスマートフォン。

結局根負けして、押し当てた耳に聞こえた声はやたら不機嫌で。

「……電話しろって言わなかった?」

「……仕事中でしょうから」

淡々と返す私の耳に。

フッと笑う声が届く。

「嫌味が言えるなら大丈夫そうだな。
……帰りに寄るからおとなしく寝てろよ」

当たり前のように言う瀬尾さんに。

さっきまでの虚勢が崩れて、焦る私が顔をだす。

「いえっ、いいですっ。
あのっ、寝てますから、大丈夫ですからっ」

「八時くらいには寄るから。
身体、辛くなったらちゃんと連絡しろよ。
じゃあな」

一方的に通話を切られてしまった。







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