イジワル上司に甘く捕獲されました
私のものではない腕だけれど。

今だけは。

向けてくれた優しい笑顔も。

私の両頬に添えられている大きな手の平も。

私だけのものだと思わせてほしい。

胸が痛くなるような切なさ。

嬉しいのに何処か寂しくて。

もっともっとと欲張ってしまいそうな自分が恐い。

片思いってこんな感じだった……?

こんなに胸が痛かった?

そんな風に思いだすと、私はきちんと誰かに恋をしたことがあったのかと考えてしまう。

……拓斗の時ですら。

付き合う前も付き合ってからも……別れる時でさえ。

涙は出たけれど、悲しかったけれど、こんなに胸が痛くなることも、少しのことに心臓が狂いそうなくらいにドキドキすることもなかった。

……私自身が初めて出会う私に、出会うことはなかった。

「……どうして……」

「……え?」

両頬に手を添えている状態で瀬尾さんが聞き返す。

そんなに優しく私を包み込まないで。

勘違いをしてしまうから。

「……どうして……キス……したんですか?」

色々聞きたいことも、聞きたい順番があった筈なのに。

全部をすっ飛ばして、口から零れた言葉はそれだった。

「好きだから」

「……っ!」
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