イジワル上司に甘く捕獲されました
「……桔梗さん、失礼ですよ」

藤井さんが横目で睨んで桔梗さんを嗜める。

「ハイハイ。
でも仕事に対しては真面目に取り組んでるし、これからはうちの会社も女性の役職者を増やしていこうとしているから、本当に峰岸はそのモデルみたいなもんだよ」

検印してくる、そう言って藤井さんを連れて歩き出した桔梗さんの背中を見送って、席に戻ろうとした時。

何故か私を見つめる峰岸さんと目が合った。

その綺麗な瞳は何の感情もこめられていないようで、でもとても鋭くて。

私の胸がざわめく。

何かとても大きな不安を感じた。

無意識に鎖骨の下くらいに隠してある指輪に手を触れる。

潤さんが指輪を贈ってくれた日から、寂しくなったり、自信をなくしたり、不安に思うことがあった時は触れることが癖になりつつある。

視線を外せずにいる私に。

フッと綺麗に口紅が塗られた唇で微笑んで、峰岸さんは踵を返した。

……どういうことだろう。

私は峰岸さんに会うのは初めてだ。

でもあの峰岸さんの表情は私を知っているみたいだった。

考えても答えがでないけれど。

それからは峰岸さんの表情が頭から離れなかった。
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