イジワル上司に甘く捕獲されました
「……嘘でしょ?」

さっきまでの強気な態度は見る影もなく。

動揺を滲ませて峰岸さんが潤さんに尋ねる。

「嘘じゃない。
……ごめん、峰岸。
俺はもうお前に特別な感情は抱いていない」

静かな声でハッキリと言い切った潤さんに。

「そう……わかったわ。
でも……私はまだ諦めないから」

感情の読めない小さな声で呟いて、スッと私の横を通り過ぎて行った峰岸さん。

その顔色はとても悪かった。

二人の関係がいくら鈍いと言われる私でも、大体わかってしまった。

峰岸さんが去った今、潤さんにどう話しかければよいのかわからなくて。

……ここに来てくれてありがとう?

……私を彼女だと言い切ってくれてありがとう?

……峰岸さんと付き合っていたの?

……峰岸さんはまだ潤さんが好きなんだよね?

どれも私から今、言うべきかもしれないけれど、口にしてよいのか自信がもてなかった。

「……ごめん、美羽」

考えあぐねている私を宥めるように、手の甲でゆっくり私の頬を撫でながら潤さんが言った。

「う、ううん……」

「……美羽に心配かけるつもりも、隠すつもりもなかったんだ。
……ちゃんと話したいから、今日帰ったら……何時でもいいから家に来て」

切なそうに私を見つめる潤さんに私はただ頷いた。

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