イジワル上司に甘く捕獲されました
同じマンションに住んでいることも、付き合っていることも内緒にしている私達は一緒に帰宅するわけにはいかない。

歓迎会がお開きになり、私は金子さんや藤井さん、他の方向が同じ女性社員の皆さんと駅に向かった。

御手洗いから戻ってから、一度も峰岸さんは私を見ず、私の席にも近づかなかった。

……峰岸さんが私の席に挨拶に来てくれたことは、潤さんとの関係を聞きたかったから、だったんだろう。

恐らく桔梗さんは潤さんと峰岸さんの過去を知っていて。

それで二人はあんな話し方をしていたのだと思う。

潤さんから詳しいことを聞いていない私は二人の過去はわからないけれど。

……峰岸さんは今もずっと潤さんを想っていて。

峰岸さんから見たら私は認めたくない存在なのだろう。

峰岸さんみたいに仕事がバリバリ出来るわけではないし。

峰岸さんみたいに美人でも、大人の女性でもない。

……さっきだって。

胸を張って潤さんは私の彼氏です、とは言えなかった。

秘密にしているという躊躇があったとはいえ、結局は潤さんに助けてもらった。

きっとそんなところも。

峰岸さんには納得できないのだろう。

支店の皆さんに挨拶をして最寄り駅で降車する。

電車が見えなくなるまで、乗車している皆さんに手を振って。

私は自宅へと歩き出す。

真冬の夜は人通りが更に少なくて。

あまり明るくないオレンジ色の街灯がぼんやりと白い道を浮かび上がらせる。

凍った道を滑らないように慎重に歩きながら。

いつかの初詣を思い出す。

凍った道に砂を撒いて滑らないようにすることも知らなかった私に驚く潤さんの顔も。

私よりもずっと寒さに慣れていることも。

お詣りの列に並びながら他愛ない話をずっとしていたことも。

ずっと手を繋いで笑いあっていたことも。

すぐに思い出せる。

……だってずっと大事にしている思い出だから。



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