イジワル上司に甘く捕獲されました
真央の笑顔に後押しされて。

私はスマートフォンと家の鍵だけをポケットに入れて潤さんの部屋に向かう。

きちんと着替えた方がいいのか悩んだけれど、何だか畏まりたくないし。

帰宅したか、今から行ってもいいかを確認した方がいいのか考えたけれど。

いつでもいいと言ってくれていたし、深刻すぎる雰囲気になりたくないし、連絡してから向かいたくないな、と思ってしまって。

私は玄関の呼び出し音を鳴らす。

ガチャッとすぐに扉は開いて。

私と同じように既に部屋着に着替えた潤さんが顔を出した。

……普通のトレーナーにスウェットなのに、何でこうもオシャレに見えるのかな、と頭の片隅で考えていたら。

「お帰り、美羽」

穏やかな表情で潤さんが私を部屋に招き入れてくれた。

潤さんの部屋はいつも潤さんの匂いで溢れていて。

自宅に戻ると、私の服や荷物に少し香りが移る。

潤さんが近くにいること、私の大切な恋人である証のような気がして。

そして二人で過ごした時間の余韻のようで。

少し切なくて、嬉しくなる。

「……ただいま」

香りの主にそっとしがみつく私を軽くギュッと抱き締めてくれる長い腕。

玄関からリビングまでの短い距離を指を絡めて移動する。

ソファに座った私に、潤さんは温かいカフェ・オ・レを淹れてくれた。

「……いくら真上とはいえ、廊下は寒いだろ?
上着は?」

心配そうに言う潤さんに。

曖昧に微笑む私。

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