イジワル上司に甘く捕獲されました
毎日の業務に携わっているうちに、カレンダーの日付けはどんどん進んで、三月になった。

桃の節句も過ぎ、気温も緩やかに上昇している。

太陽が顔を出す時間も長くなり、春の訪れを日増しに感じられる、皆が何か明るい気持ちになるなかで。

私はやはり憂鬱な気分を心の奥に感じていた。

あれから。

ますます潤さんは忙しくなり、朝も取引先に直行だったり、帰宅時間もとても遅い日が続いている。

私ともスレ違いのような日々が続いていて、せめて負担にならないようにと、会いに行きたい気持ちをかろうじて抑えて電話をかけても繋がらないことが多い。

折り返しの電話がかかってくるのは翌日、翌々日になったりしている。

急用ではないので、それで充分なのだけれど。

今、今、あなたの声が聞きたい。

ただ、声を聞いて安心したい。

そう思う私の気持ちは見事に空回りをしていた。

そんな自分の後ろ向きな弱さが嫌なのに。

できるだけ前向きにならなければと指輪を見つめては溜め息を吐く毎日を繰り返していた。

個人的に連絡がとれなくても、同じ支店だから、今日は何処に向かっている、とか。

あまり自席にはいない彼だけれど、店内で姿を見ることができたり。

全く彼との接点がないわけではないのに。

雪のように静かにゆっくりと積もっていく不安は消えていくことがなく。

どうみても過密スケジュールをこなしている潤さんに少しは休んでもらいたい、休ませてあげたいと思う気持ちと。

少しでも会いたい、傍にいたい気持ちと。

私のワガママが。

ずっと交錯していて。

だけど。

それを上手く伝えきれずに吐き出せずにいた。

でも。

一番恐いことは。

私が札幌支店に勤務しているから。

すれ違っていても何とか接点があって様子がわかるわけで。

もし。

私が札幌支店勤務ではなくなったら……そんなことはかなわなくて。

私達は当たり前だけど、お互いに関係のない空間で、すれ違ったまま、毎日の時間を過ごすことになる。

以前に言われた潤さんの言葉が日増しに私の心にのしかかる。

仕方がないこと、それはわかっている。

だけど。

今、こんなに好きな人ができて。

離れて暮らす毎日に。

……私は耐えられるのだろうか……。

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