イジワル上司に甘く捕獲されました
嫌な予感ほど、アッサリ的中するもので。

当たり前のように一日の業務をこなして、閉店時間も過ぎ、今日も無事に一日が終わったなあと安堵していた時に。

「橘、ちょっと応接室に来て」

潤さんに呼ばれた。

潤さんの表情も声音も、一瞬、強張っているようだったから……まさか、もしかして、と思った。

本当なら聞きたくないし、逃げ出したい。

鼓動がドクンドクン、と大きく響き出す。

だけど、彼は上司だし、そんな訳にはいかなくて。

「……はい」

小さく返事をして、指示された部屋に潤さんと向かう。

開け放された応接室は、一番最初に私が瀬尾潤さんという人が男性だと教えられた面談の部屋。

……あの日からもう半年以上が過ぎたなんて。

あの時は外見は本当に素敵だけど、何て意地悪な人だろうって思っていたのに。

今ではこの人の全てがこんなにも愛しくて泣きたくなる。

「失礼します」

潤さんがハッキリとした声で足を踏み入れた応接室には、皆川さんと峰岸さんがいた。

……こんな時でも、いつでも峰岸さんは潤さんと一緒にいるんだなと苦いものが口の中に広がる。

潤さんの後任で私の上司になるのだから当たり前なのに。

苛立ちに似た消化しきれない思いが湧き出る。

私も小さな声で失礼します、と言って後に続く。

「お疲れ様、橘さん。
忙しいところごめんね。
あ、その辺りの好きな場所に座って」

相変わらずの穏やかな表情で皆川さんが言う。

私は軽く頭を下げて皆川さんの向かいに座る。

皆川さんの隣には潤さん。

私の隣には峰岸さんが座った。





< 176 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop