イジワル上司に甘く捕獲されました
「……私としてはまだまだ瀬尾くんには助けてもらいたいし、色々教えてもらいたいのだけれど。
簡単に言うと、そろそろ瀬尾くんの異動も絡んでくるから、ということですよね、皆川さん?
その前に橘さんが元の支店に戻るってことと」

皆川さんは簡潔に話す峰岸さんに苦笑しながら頷く。

思わず峰岸さんの横顔を見つめると、相変わらずの綺麗な顔に妖艶な微笑みを浮かべていた。

「まあ、そういうことだね。
元々、橘くんは半年位の予定で異動してきてもらっていたからね。
橘くんにはまた引っ越しをしてもらわなくてはいけないから、負担をかけてしまうのだけれど。
本来は三月末くらいに辞令が出て四月に着任となるんだけれど、元々異例な形で着任してもらっているし、何より引っ越しがあるからね。
前もって話そうということになったんだ」

「……では私は四月には元の支店に戻るということですか……?」

力の入らないかすれた声で話す私に。

「そういうことになるね。
大丈夫、橘さんが今、抱えている仕事はきちんと引き継ぐ予定だし。
引っ越し休暇も取得してもらって構わないから」

検討違いのフォローを優しく伝えてくれる皆川さん。

「……では橘はもう自席に戻していいですか?」

部屋に入って初めて話した潤さんの声と瞳には何の感情も感じられず。

「ああ、そうだね。
そういうことだから、よろしくね、橘さん」

皆川さんの言葉を聞いて、私はノロノロ立ち上がる。

「橘さん、地下の資料室から、申し訳ないんだけどプロジェクトのファイルを持ってきてくれない?
私の席に置いておいてほしいの。
私はまだ皆川さんと瀬尾くんと話があるから」

立ち上がった私の顔をじっと見つめながら峰岸さんが言う。

頷いた私を一瞬だけ見て、峰岸さんは皆川さんに話しかける。

私は俯いたまま、失礼します、をできるだけ普通の声で伝えて足早にその場を去った。

……自分の声さえも遠くから聞こえてきた誰かの声のようだった。


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