イジワル上司に甘く捕獲されました
足も上手く動いているのかよくわからない。

ただ、なけなしの理性で会社では泣いてはいけない、取り乱してはいけないと歯を食いしばる思いで自分を支えた。

営業時間が終わって人気が殆んどない地下の資料室に向かう。

そのまま席に戻る自信がなかった私には地下に行くようにという指示は有り難かった。

資料室は案の定私しかいなくて、薄暗い部屋に灯りをともして資料を探す……つもりだった。

だけど、棚に伸ばすつもりだった手は上がらずに、だらんと体の横にぶら下がって。

「……うっ……えっ」

泣いてはいけないのに嗚咽がもれる。

ここは仕事場で泣いていい場所ではない。

仕事以外のことで。

しかも就業時間中に。

私は泣きたい訳じゃない。

潤さんに別れを切り出された訳じゃないし。

喧嘩をした訳でもない。

ただ離れるだけ。

ただ今までみたいに会えなくなるだけ。

気持ちが離れる訳じゃない。

わかってる。

わかってるのに。

……どうして涙がとまらないの……。

どうしてこんなに胸が痛いの。

身体の奥から目に見えない不安が込み上げて自分がのみ込まれそうだ。

こんな風に自分を見失うようなことはなかったのに。

泣いたって何の解決にもならないのに。

こんなのはただの被害妄想みたいで。

ただのワガママ。

情けなくて子どもみたいで嫌なのに。

涙がとまらない。

苦しい。

傍にいたい。

ただそれだけのことが。

私にとってどれだけ大きな支えだったかを今更ながらに思い知る。




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