イジワル上司に甘く捕獲されました
思いもしなかった自分の気持ちに出会って。

フラフラと考えながら帰路に着いた。

皆の退社時刻には早い時間のせいか、ロッカールームで誰に会うこともなく。

頭の中がきちんと機能していない中でも機能していた帰巣本能で私は最寄り駅に辿り着いていた。

季節は全く違うけれど、あの夏の日。

バスを降りて、潤さんの背中を追いかけて歩いた道を今、一人で歩く。

……何処にでも思い出がいっぱいすぎて。

何もかもが痛い。

失った恋でもないのに。

泣く必要も悲しがる必要もないのに。

下を向いたら涙が零れそうだ。

そんな気持ちを抱えて、マンションのエントランスに着いた時。

ロビーに一際目立つ風貌のスーツ姿の長身の男性がいた。

「……潤さん」

漏れた言葉に。

彼は顔をあげる。

そこに浮かぶ表情を確認することが恐い。

眉をひそめられたら?

迷惑そうな顔をされたら?

……きっとまだ赤い私の目と腫れた瞼に彼は気付く。

重い、とこんなことでこんなに泣くなんて、と呆れられたら?

私との距離を三歩で縮めた潤さんは、私がその表情を確認する前に私を胸の中に閉じ込めた。

ギュウッと力を込めて。

思いがけない彼の行動に私は驚く。

「……潤さん?
ど……して、ここに……」
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