イジワル上司に甘く捕獲されました
「勿論、翔の分は取り分けたよ。
でも、翔も一人暮しだし、そんなにいらないじゃない?」

だからあげなよ、と念押しして、真央は部屋を出ていった。

残された私は、というと。

手の平にある名刺をじっと見つめて。

とりあえずノロノロとベッドから出て洗面所に向かう。

現在午前十時。

さすがに瀬尾さんも起きている筈。

顔を洗うために勢いよくお湯を出して。

鏡に映る自分に相談する。

浮腫んでひどい顔に変わりはないけれど、少しはさっぱりした。

……お礼は伝えなきゃいけないよね。

……いや、むしろ謝罪……。

一気に気持ちが重たくなる。

申し訳程度に身支度を整えて、軽く化粧もして。

スマートフォンと名刺をテーブルの上に置いてにらめっこをすること数分。

はあ、と重たくて若干お酒臭い息を吐く。

……お礼は伝えなきゃいけないよね……。

……謝らなきゃいけないよね……。

……でも何故お姫さま抱っこ……。

……でも仕事用の携帯電話かも、だとしたら今日は繋がらないかも。

数分前と変わらない疑問をグルグル考えて。

気分が重たいことは先に済ませようと決意して。

エイッとばかりにスマートフォンを取り上げる。



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