イジワル上司に甘く捕獲されました
階段で七階に上がって、玄関の呼出しボタンを押す。

一階違うだけで、随分雰囲気が違う気がするのは気のせいだろうか。

確認もされずに、ガチャッと開くドア。

「す、すみませんでしたっ」

瀬尾さんの顔を見る前に、頭を下げる。

「お姫さま抱っこ?」

聞きたくない言葉を再び聞く私。

「橘の小さい頃からの夢だって言ってたよ」

「な、何……」

思わず顔を上げると、Tシャツに私と同じようなジーンズを履いた瀬尾さんがいて。

休日だからか黒いフレームの眼鏡をかけていた。

眼鏡の奥の瞳はイタズラっ子の様におもしろがっていたけれど。

半分開いたドアにもたれ掛かる様は、さながらモデルのようで。

やっぱり綺麗な人だなあと一瞬見惚れて、再確認した。

それと同時に始まる私の速い鼓動。

うるさすぎて瀬尾さんに聞こえそうだ。

「お、重たかったと思いますし、じ、上司にとんでもない失態を……」

しどろもどろで口を開く私に。

「いや、そんな重たくなかったよ、むしろ軽かった。
橘、ちっこいからなあ。
ちゃんと食ってる?」

私の顔を覗きこむかのように近づいてくる瀬尾さんの顔に。

私の顔が火をふく。

「こ、こ、これ、素麺ですっ、どうぞ!」

バッと瀬尾さんの近づいてくる顔面に紙袋を押し出す。


< 58 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop