イジワル上司に甘く捕獲されました
私が札幌支店にやって来てから早くも一ヶ月が過ぎて、業務にも支店の雰囲気にも慣れてきた。

あっという間に八月が来た気分で。

実家にいた頃と違い、真央と交代制の食事、掃除当番にも慣れて、毎日のリズムが出来上がってきていた。

こちらではあまり蝉の声も聞かず、真夏と言われる八月でも日が落ちると肌寒く、薄手の上着は欠かせない。

そんな些細なことにも、私は今、札幌にいるのだなあと実感する。

広々とした空の青さやべたべたした感じのない暑さは私には気持ちよいのだけれど、その分、冬の寒さに耐えられるか不安になる。

「本当に美羽ちゃんを置いていくこと、不安だなあ……」

海外研修の荷造りをしながら真央が言う。

「大丈夫だよ、真央。
この辺りにも随分慣れてきたし……ほら、お父さんとお母さんも遊びに来ようかなとか言っていたし。
半年でしょ?
しかも年末年始は一旦戻ってきてくれるんだし。
心配しないで。
電話だって手紙だって出せるんだから」

精一杯フォローする私を横目で眺めながら、真央は手を止める。

「……でも美羽ちゃんは札幌の冬が初めてでしょ?
翔に何かあったら美羽ちゃんを助けてあげてねって頼んではいるけど……やっぱり心配だなあ」

そう、心配性な真央は私一人をここに置いて海外研修に行くことをこの数日悩んでいるのだ。

今日はたまたま二人の休みが合ったので、朝から真央の荷造りを手伝っている。

真央は明日から一週間、会社で最終の研修を受けて、海外研修に飛び立つのだ。

つまり。

私と一緒に過ごすことができる時間は一週間くらいしかないのだ。






< 68 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop