イジワル上司に甘く捕獲されました
……どれくらい時間が経っただろう。
フロアを出るときに持ってきた、店舗持込み用の私物鞄からスマートフォンを取り出して時間を確認する。
ぼうっと泣いていただけなのに既に一時間近く経っていて。
そのことに驚く。
……たまたまロッカールームが今、無人でよかった。
一時間前は余裕がなくて、ロッカールームに入るなり座り込んで泣いてしまったから。
誰かいたら本当に恥ずかしい。
一人になって色々考えたせいか、少しだけ気分が落ち着いた。
いずれ、瀬尾さんの彼女というハッキリとした存在を知ったら諦めなきゃいけないだろうけれど。
まだ今は諦められる時が来るまでは。
……好きでいたい。
ソロソロと鞄から手鏡を取り出して化粧を確認すると、やっぱり悲惨な状態で。
化粧ポーチを取り出した時、スマートフォンが振動した。
「あ、橘さん?
大丈夫?」
「は、はい。
大丈夫です。
ご心配おかけしてすみません。
あの、今から戻ります」
「ああ、いいのよ。
良かった、少しはよくなったのね?
こっちのことは気にしないで。
ゆっくり戻ってきて。
辛いようなら早退してもいいってさっき瀬尾さんが言ってたから」
瀬尾さんの名前を聞いてドキンとする。
スマートフォンを持つ指が微かに震える。
「橘さん?
……本当に大丈夫?
今は医務室?」
気遣わし気な藤井さんの声にハッとして返事をする。
「す、すみません。
本当に大丈夫です。
今、ロッカールームなので、すぐ戻ります」
「そう?
本当に無理をしないでね。
ゆっくりでいいからね?」
ありがとうございます、と何度かお礼を言って震える指で通話を終えた私は急いで化粧を直した。
微かに目が赤くて訝しまれるかもしれないけれど……きっと誤魔化せる。
化粧ポーチを鞄に入れて忘れ物がないか見回して。
フロアにいる瀬尾さんに怪しまれないようにしなきゃと自分を鼓舞するために、深呼吸を一つして。
冷たくなった手をギュッと握りしめて。
ドアの外に出た。
フロアを出るときに持ってきた、店舗持込み用の私物鞄からスマートフォンを取り出して時間を確認する。
ぼうっと泣いていただけなのに既に一時間近く経っていて。
そのことに驚く。
……たまたまロッカールームが今、無人でよかった。
一時間前は余裕がなくて、ロッカールームに入るなり座り込んで泣いてしまったから。
誰かいたら本当に恥ずかしい。
一人になって色々考えたせいか、少しだけ気分が落ち着いた。
いずれ、瀬尾さんの彼女というハッキリとした存在を知ったら諦めなきゃいけないだろうけれど。
まだ今は諦められる時が来るまでは。
……好きでいたい。
ソロソロと鞄から手鏡を取り出して化粧を確認すると、やっぱり悲惨な状態で。
化粧ポーチを取り出した時、スマートフォンが振動した。
「あ、橘さん?
大丈夫?」
「は、はい。
大丈夫です。
ご心配おかけしてすみません。
あの、今から戻ります」
「ああ、いいのよ。
良かった、少しはよくなったのね?
こっちのことは気にしないで。
ゆっくり戻ってきて。
辛いようなら早退してもいいってさっき瀬尾さんが言ってたから」
瀬尾さんの名前を聞いてドキンとする。
スマートフォンを持つ指が微かに震える。
「橘さん?
……本当に大丈夫?
今は医務室?」
気遣わし気な藤井さんの声にハッとして返事をする。
「す、すみません。
本当に大丈夫です。
今、ロッカールームなので、すぐ戻ります」
「そう?
本当に無理をしないでね。
ゆっくりでいいからね?」
ありがとうございます、と何度かお礼を言って震える指で通話を終えた私は急いで化粧を直した。
微かに目が赤くて訝しまれるかもしれないけれど……きっと誤魔化せる。
化粧ポーチを鞄に入れて忘れ物がないか見回して。
フロアにいる瀬尾さんに怪しまれないようにしなきゃと自分を鼓舞するために、深呼吸を一つして。
冷たくなった手をギュッと握りしめて。
ドアの外に出た。