Spice‼︎
「キールでいいか?」

「はい。」

桐原はいつもの待ち合わせと変わらなかった。

長い間、離れていた梨花は
桐原の隣に座るだけで緊張しているのに
桐原には昼間の出来事なんてなんでも無いのかも知れないと思った。

「昼間は悪かったな。

お前が俺に断りもなく上海に逃げるって聞いて
頭に血が上った。」

「でも…社内であんな事…」

「あんな事?

お前だって楽しんでたろ?」

梨花の顔が赤く染まる。

「そんな反応するな。

また抱きたくなる。」

桐原はそう言って梨花の左手を握る。

「土方に上海に行かないって言ったか?」

梨花は首を横に振った。

「行かせてくれませんか?」

「離婚する。

お前が行かないって言ったら離婚するよ。」

「いつも交換条件を出すんですね。」

「俺は見返りがなければ、動かないよ。」

梨花は席を立とうとした。

「待て。それほど必死だって分からないのか?

お前を手に入れるためにはどんな手だって使う。」

梨花は桐原に止められてもう一度説得してみる。

「上海へ行って、もっと経験を積みたいんです。」

「梨花…俺は会社を辞める。

新しい仕事も見つけてある。

お前も一緒に連れてく条件だ。」

「なんでそんな勝手に…」

「離婚して会社を辞めたら、お前と暮らすよ。

俺についてきてくれるよな?」

梨花はこのまま桐原について行きたいと思いながら
返事を出来ずにいた。

桐原が風間と自分にした事を考えると
桐原のことを信用できなかった。





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