吉田は猫である。
「ふざけないで」


私は思いきり顔をしかめた。

これ以上にない笑えないジョーク。

ジョークにすらならない、嫌悪感が募っていくだけの言葉だ。


「いいかい、咲、よく聞くんだよ。

吉田は無愛想で生意気。可愛いげがなく、先輩である私に対する敬意を忘れている」


「まあ、理奈ったら彼のそういうところが好きなのね!生意気なところが可愛い、みたいな」


目を輝かせる咲は私の話を聞いていないらしい。

これだけ吉田の嫌なところを並べ立てたのに、どうしてそんな話になるのだろう。

きっと咲の頭の中はお花畑だ。きっと蝶々も飛んでいる。


「でも、嫌な面だけじゃないんでしょう?いいところだってあるでしょう?」


咲がそんなことを言うので、少し考えてみる。


「吉田の、いいところ」


吉田のいいところ。

吉田のいいところ。

吉田の……


「咲さん、どうしよう」


考えるのをやめて咲に助けを求める。


「なあに?」


私がどんな乙女発言をするのかとワクワクしているのか、咲はにやけた顔をしている。

先に言うと、この後私の発言を聞いた咲は顔を歪めて溜め息を吐くことになる。




「吉田のいいところが見つからない」


これがジョークならいいのにと願わずにはいられない。
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