黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
前後に迫る兵士たちから守るように、ギルバートの腕を掴んで引き寄せた。
警戒して周囲を見回すフィリーの頬をギルバートの大きな手が捕らえ、振り向かせる。
氷の目はじっとフィリーを見つめていた。
「なに、どうしたの? 苦しい?」
ギルバートの額に落ちるほつれた黒い髪を払い、頬をなぞる指に手を重ねて、慎重に顔を覗き込む。
フィリーに心配されることがおかしいのか、ギルバートが口の端を持ち上げ、愉快そうに笑った。
「きみは俺を好きだったらしいから、ほかの男のものになる前なら、俺にも望みはあるんだろう」
フィリーは黙ってギルバートを見つめ返す。
ギルバートがすばやく額にキスをして、耳もとに低く囁いた。
「愛してる。まだ言ってなかった」
背中を強く抱き寄せられ、湖のほうへ身体が傾く。
銃声が弾け、ギルバートの腕が大きく震えてこわばった。
フィリーを雪の上に引き倒し、人形のように湖のほとりへ転がっていく。
ギルバートは顔を上げない。
波が打ち寄せ、煉獄の海を赤く染めた。
「いや、だめよ! ギルバート!」
絶叫し、駆け寄ろうとするフィリーの腕を、集まってきた兵士が掴んで取り押さえる。
喉が裂けるほど叫び、頭がおかしくなるほど手足を振り回したが、そのままずるずるとマリウスのそばへ引き戻された。
ロジャーが誇らしげにマスケット銃を掲げている。
隊列は沸き立ち、悪魔を討ち取ったことを喜んだ。