黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
23.
肩を蹴られて目が覚めた。
左腕が麻痺し、うつ伏せになった腹から下は血と波にぐっしょりと濡れている。
背中は焼かれたように熱く、肺を抜ける呼吸の音が耳障りだった。
鼻の先にくそ忌々しい王太子が立っている。
派手な赤色の大綬に仰々しい勲章をぶら下げ、黙ってギルバートを見下ろしていた。
マスケット銃を持った男に痛くもない左肩を踏まれるのが鬱陶しい。
ギルバートは仕方なく、低く唸りながら重たい頭を上げた。
男が慌てて飛び退く。
マリウスが冷ややかに眉をひそめた。
「きみはもっと頭のいい男だと思っていたが。自分がなにをしたかわかっているのか。フェリシティは僕の婚約者だ」
ギルバートは口の中に溜まった血を吐き出し、頬を歪ませた。
「知るか。俺の女だ」
フィリーがほかの男に連れて行かれるのを、黙って見ていることはできなかった。
たった一度抱けば身を引くと思っているのなら、フィリーはギルバートをみくびっている。
その程度では手放してやれない。
国も爵位も黒旗騎士団も置き去りにして、ギルバートはここへ来た。
だいたい、残酷なのはフィリーのほうだ。
ギルバートを好きだと言った次の日の朝には、べつの男の妻になると言って捨てる。
泣いて縋って守ってほしいと求めるくらいのことはするべきだった。
そう簡単に忘れてやるものか。