黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「俺の女? とんでもない勘違いだな、もし真実だとすればフェリシティは死ぬ。きみに理解できないはずはないだろう。なぜミネット王が彼女を生かしたのか。フェリシティがいるのは僕のためだ」
火を放たれたように身体中が熱くなり、ギルバートを勢いよく立ち上がらせた。
すばやく距離を詰め、マリウスの喉を掴む。
左腕さえ自由に動くなら、もっと手際よく首の骨を砕いてやったのに。
マリウスは短く喘いだだけですぐにギルバートの穴の空いた腹を抉り、腕を捻って仰向けに引き倒した。
背中を叩きつけられ、肺から空気が抜ける。
マリウスが肩で息をしながら、ひっくり返ったギルバートを見下ろして笑った。
「そう死に急ぐなよ。フェリシティがこんな物騒な男を好きになったなんて、なかなかいい趣味をしているんだな」
遠巻きにしていたミネット兵たちが慌てて駆け寄ってくる。
「きみがフェリシティのためにしてやれることはたったひとつだ。それをわかっているから、僕のところへ来たんだろう」
こんないけ好かないミネット野郎にフィリーを渡すのは我慢ができないが、惚れた女には生きていてほしい。
マリウスが剣を抜き、ギルバートの心臓に向けた。
雪がまつ毛にとまる。
ギルバートはフィリーの翠色の目のことを思い出した。
初めて見たときからその色が好きだったと、言い忘れたかもしれない。
「心臓を突き刺せば絶命するんだろうな。きみは悪魔と契約を交わしているという噂だから」
マリウスが剣を振り上げる。
「一度死んでみるといい。湖にはきみの父上も眠っている」