黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
外には意匠を凝らした左右対称の庭園が広がり、貴族たちがよく散歩をしている。
ただ、宮殿から王太子の離れは馬車に乗りたくなるような距離で、この近くまで歩いてくる者はほとんどいない。
毎日姿を見せるのは、赤茶色の美しい巻き髪を持つ令嬢だけだった。
胸の開いたドレスを着た令嬢が、付き添いの侍女に何事か囁き、こちらを見上げてくすくすと笑っている。
あの娘こそランピーニ侯爵令嬢アナスタシアだろうと、フィリーにはわかっていた。
マリウスを訪ねてきている。
そして飽きもせず、部屋に引きこもっているフィリーを憐れんで楽しむ。
フィリーはツンと顎を上げて見返した。
ショックを受けた素振りを見せるアナスタシアを、侍女たちが慌てて慰める。
アナスタシアが王女のことをどれほど惨めに思っていようと、フィリーには関係のないことだった。
もう、なにも知らなかった頃のフィリーではないから。
大切なものはここにはない。
ギルバートに恋をしていたときだけにフィリーの永遠があって、これからもずっと、薄れていく記憶の中で膝を抱えて息をする。
フィリーは両手を握って目を閉じた。
ギルバートのことを想う。
その日もまた月が昇るまで、そうしてじっと窓辺に座っていた。