黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
背の高いヘッジと花壇の間を歩き、道に迷いそうになってきた頃、ようやく肩に梯子を担いだ煙突掃除人を見つけた。
「あの、すみません!」
パニエを着けた重たいスカートを持ち上げ、急いで駆け寄る。
煙突掃除人が振り返り、派手に着飾った女が勢いよく走ってくるのを見ると、焦った様子で梯子と帽子を放り出した。
フィリーは胸を押さえて息を整え、男の白髪交じりの頭を見下ろす。
「呼び止めてしまってごめんなさい、どうぞ顔を上げてください。もしよろしければ、私と握手をしてくださいませんか」
早口でまくし立てるように懇願し、控え目に手を差し出す。
煙突掃除人が恐る恐る頭を上げた。
フィリーの顔を見ると、慄いて目を見開く。
「マーガレット王妃……いいえ、フェリシティ王女殿下ではございませんか? ああ、どうかお許しください」
初老の男はフィリーの手をマメのできた両手で握り返し、その場に崩れ落ちて膝をついた。
俯き、身体を震わせて咽び泣く。
フィリーは途方に暮れた。
まさか煙突掃除人が十七年前に死んだ王妃の顔を憶えているとは思わなかった。
母の故郷であるブロムダール城にさえなかった肖像画を、マルジオが目のつくところに飾るはずもないし、両親のために働いていた者は全員解雇されたと聞いていたからだ。
フィリーですら母の顔を知らない。
そんなに似ているのだろうか。