黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フィリーは困惑しながら男の肘を支えた。
「あの、泣かないで。母を知っているのですね、私のことがわかるの?」
なんとか立ち上がらせ、泉水のそばのベンチへ連れていく。
男は嗚咽を堪えて頷いた。
「母君にとてもよく似ていらっしゃいます」
ベンチに並んで座ると、恥ずかしそうに鼻を啜り、シワのある目尻を下げる。
「取り乱してしまって申し訳ございません。お目にかかれるとは思いも寄りませんでした。バイロンと申します。今は名乗る爵位もございませんが、あなたのお父様に生涯の忠誠を誓っております」
「まあ、そうだったのですか」
たしかにバイロンは顔も手も煤だらけだが、発音には気品が残っている。
貴族らしく身なりを整えれば、さぞ風格のある紳士に見えるだろう。
バイロンは周囲を見渡し、肩を落として声を潜めた。
「ルドルフ様が亡くなられたとき、誰もがあの暗殺には黒幕がいると直感していました。マーガレット様は危険を察知し、すぐに故郷へ身を隠された。我々は真相をつきとめようとしましたが、忠臣は次々に粛清され、証拠を掴んだ者は尽く口を封じられた。私の家は古いだけでさして力のない貴族でしたから、称号と領地を召し上げられただけで見過ごされ、今はこうして宮殿に仕えているのです」
灰色の目にまた涙が膜を張る。