黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

「あなたがひどい扱いを受けていることを知っていました。でも報復を恐れてなにも手を尽くさなかった。私はもうご両親に顔向けができません」

バイロンの汚れた手に、フィリーは優しく手を重ねた。

「ご家族はお元気なのですか。きっと苦労をしたことでしょう。あなたが生きて、こうして私に話をしてくれることを、両親も喜んでいると思います」

バイロンが瞼を拭い、懐かしそうに目を細める。

「贅沢はできませんが、慎ましく幸せに暮らしております。フェリシティ様の聡明でお優しいところは、父君に似ていらっしゃいますね。この先の困難には、きっとこのバイロンが力になることをお約束いたします」

フィリーは微笑んで頷いた。

女王にさえなれるのだと、ギルバートに教えられた。

王位にもミネットにもなんの執着もない。
でもフィリーには、マルジオにもマリウスにも与えられなかった、正統なる王家の血筋が流れている。

父が守りきれなかった人々のために、するべきことがあるのかもしれない。

「もしも王女としてなにかできることがあるのなら、必ずあなたたちのために力を尽くすと、私も約束します」

フィリーが小さな誓いを立てたそのとき、ザクロの木の向こう側に数人の人影が見えた。

金の刺繍が施された群青色のジュストコールを着た男と、贅沢なレースのクラヴァットを巻いた赤茶色の髪の小太りの男が、大勢の付き添いを連れて歩いてくる。
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