黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
王と侯爵の護衛がフィリーをじりじりと取り囲む。
謀反か外患の罪を被せるつもりだ。
暗殺を企てずとも、堂々と王女を断罪できる。
目を伏せたフィリーの視線の先に、磨き上げられた靴先が止まった。
「そう喚かないでくれ。十七年も城に閉じこもっていたのだ、昔話ならいくらでもすればいい」
顎を掴まれ、無理やり顔を持ち上げられた。
マルジオはミネット王家の男にふさわしい藍色の目を受け継いでいる。
ただ母親が正妃ではなかった。
どんな才能と努力を重ねても、正統なる血筋を持つ異母弟に勝ることはない。
それだけがマルジオの失敗だった。
息子とよく似た形のいい唇が弧を描く。
フィリーは怯えを悟られまいと、ギルバートの黒いマントを巻いた手をスカートの襞に隠した。
「すでに旧派のひとりを掌握とは、しばらく見ないうちに立派な王女になったな。伯父として喜ばしい」
マルジオが耳の奥を撫でるような声で囁く。
「私がなにも知らないと思っているのか。お前の騎士はまだ生きているぞ」
フィリーは思わず両手で顔を覆った。
ギルバートが生きている!
マルジオの報せは例えようのない喜びで、叫び出したくなるほどの恐怖だった。