黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
26.
忌々しいミネットの王太子が笑っている。
フェリシティは僕の婚約者だ。
「このくそ野郎!」
ギルバートは腹が千切れるほどの悔しさに目を覚ました。
ベッドの上に寝かされている。
ブライン砦の小部屋だった。
肩と腕に包帯を巻かれ、撃たれた背中には穴が空いているらしく、比喩ではなく腹の傷が痛む。
ソファで本を読んでいたオスカーが驚いて目を丸くし、ベッドに駆け寄ってきた。
「ギルバート! やっと目を覚ましたな」
ギルバートはすばやく部屋の中に視線を走らせる。
窓から薄い月明かりが差し込んでいた。
暖炉で薪が燃え、テーブルの上に飲みかけのエールが置いてある。
フィリーはいない。
ミネットに連れていかれたからだ。
ギルバートは弾かれたように身体を起こした。
「俺はどのくらい眠りこけていた」
「おいおい、動くな! 今日で十二日目だよ。とんでもない量の血を失って、死ぬほどの高熱を出していた」
十二日間!
頭を抱えるギルバートを、オスカーが無理やりベッドの上に押し戻す。
「マック・アン・フィルが血だらけのマントを咥えて帰ってきたとき、俺たちがなにを想像したかわかるか。お前はフィリーのことになると頭がおかしくなる。敵の軍隊にひとりで突っ込むなんて正気じゃないぞ。死んで当然だった」
オスカーは珍しく機嫌が悪いらしかった。
端正な顔には疲れが浮かんでいるし、ギルバートを責める小言が止まらない。
「俺としては、あと二週間はおネンネしていてほしかったよ。十二日で熱が下がったのは奇跡だ。頼むから医者の言うことを聞いて、手を煩わせないでくれ。しまいにはベッドに縛りつけてやるからな」