黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ギルバートは憤慨しているオスカーの腕を掴んだ。
「フィリーは無事だろうな」
オスカーがムッとして口を閉じる。
「頼むよ、オスカー」
ツンと顎を上げてギルバートの腕を振り払い、テーブルの上のエールを飲み干す。
無言で椅子を引っ張ってきてベッドの横に腰を下ろすと、深刻な顔で切り出した。
「ミネット王室は三ヶ月後に結婚式を挙げると発表した。マリウス王太子は、ランピーニ侯爵令嬢アナスタシアを妃に迎える」
ギルバートはキルトを蹴飛ばして起き上がった。
「どういうことだ。フィリーはどうなった」
「宮殿に連れていかれたところまでは調べがついている。その後は誰も姿を見ていない。ランピーニ侯爵の狙いは娘を王家に嫁がせることだったんだ。旧派がほとんど粛清された今、ミネット王はフィリーを切り捨て、新しい勢力を強固にすることを選んだ」
だからランピーニ侯爵はフィリーの暗殺を企んでいた。
マルジオがランピーニ侯爵の謀略を黙って見過ごしていたのは、まだ決めかねていたからだ。
どちらにより利用価値があるか。
フィリーが待っている。
ギルバートはベッドを飛び出し、暖炉の前の椅子の背にかけられた上衣に袖を通した。
剣帯を腰に取りつけ、長い剣を差す。
オスカーが地団駄を踏んで栗色の髪をかき乱した。
「だからもう少し寝ていればよかったんだ。お前はフィリーが関わって冷静だった試しがない、すぐに頭がいかれる。目を覚ませば暴れ出すとわかっていた」
ギルバートに言わせれば、いつも冷静だった。
ほかのすべてのこととは比べる必要もないほど大事なものを、いつでも頭でわかっている。