黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「心配はいらない。陛下には死んだと伝えてくれ」
ボロボロになった黒いマントを肩にかけ、部屋の出口へ向かった。
オスカーが眉を吊り上げてドアの前に立ちはだかる。
「また死ぬまで抵抗するつもりか! 俺は止めるぞ、あの子がそれを喜ぶと思うのか。ギルのことを想っていたから、黙ってミネットへ戻ったんだ」
ギルバートは踵を返し、部屋の反対側にある窓へ向かった。
出口はいくらでもある。
「俺はフィリーを譲ったわけじゃない。安全のために行かせたんだ。婚約が解消されたのに、ミネットに置いておく理由があるか。王女を盗んでどこへでも逃げる」
国も爵位も捨てていく。
フィリーが腕の中に戻ってくるのなら。
オスカーがギルバートの前に回り込んだ。
「くそ、それならせめて俺たちを連れていけよ! 十年も戦ったんだぞ、国王軍ではなく、ギルバートが率いるキール伯爵家の黒旗騎士団とともに。今更俺たちを振り切れると思うな!」
オスカーの剣幕に、ギルバートは足を止めた。
こんなに怒っているオスカーを久しぶりに見る。
ナバでの遊学時代を含めれば、ほとんどの時間をともに過ごしてきた。
仄暗い復讐に駆られるギルバートの背中を支えてくれたことに、感謝をしていないはずがない。
だからこそ、道連れにはしたくなかった。
ギルバートは眉をひそめ、オスカーに背を向けた。