黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ギルバートは目もくれずに吐き捨てた。
「俺に近づくな」
殺気立った地を這う声にも、ヴァイオレットは怯まなかった。
目に涙を溜め、地獄から帰ってきたばかりのようなギルバートに言い返す。
「ブロムダールの町にも医者はいます。この城で診てもらうといいわ」
「話にならないな」
あと一秒でも、フィリーをミネットに置いておきたくない。
ギルバートは女伯を避けてフィルのもとへ歩いたたが、ヴァイオレットはまたしても馬の前に立ちはだかった。
両手を広げて必死にギルバートを止めようとする。
「本気でその子を馬に乗せるの? 青ざめていて、今にも凍りそうよ。すぐに温めないと。怪我はないの? 日が暮れて、風も冷たくなるのに、濡れたドレスを着せたままで、あなたの家までどのくらい時間がかかるの?」
ギルバートは氷の目を細めて低く唸った。
「そこを退け」
「死んでしまうわ!」
喉を切り裂くような悲鳴が、ギルバートの足を止める。
ヴァイオレットの頬には涙が伝っていた。
細い肩を震わせ、ギルバートに挑み続ける。
「私たちのことが信じられないなら、ひとり残らず縛ればいい。屋敷に閉じ込めて、武器を取り上げなさい。でもお願いだから、フェリシティを助けて」