黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
波が打ち寄せ、夜が城を覆う。
馬に跨ったオスカーが、今にも閉ざされそうな石橋を振り返って囁いた。
「ギルバート、俺たちはお前に従うぞ」
腕の中のフィリーは冷えきっていて、ぐったりとしている。
呼吸は小さく、何度も確認したくなるほど微かだ。
潮汐から考えて、洞窟に閉じ込められていたのは半日程度か。
ミネットの王都からブロムダールへ連れてこられるまでを計算すれば、数日間はひどい扱いを受けていたことになる。
最後に水と食事を与えられたのはいつだろう。
ベッドで睡眠をとったのは?
見た目に大きな怪我はないが、よく調べてみる必要がある。
ギルバートはフィリーの氷のような頬を撫でた。
二度と危険な目には遭わせない。
腕の届く範囲にいる限り。
マリウスが崩れ落ちそうなヴァイオレットの肩を支えた。
「ミネット人は武器を捨てて伯爵邸へ戻ろう。きみが許可するまで誰も外へは出ない。ブロムダール城は黒旗騎士団に明け渡す」
ギルバートの目を見て付け足す。
「王の始末は僕がつける」
ギルバートは口を真一文字に引き結んだ。
フィリーを抱いて、石橋に背を向ける。
「全員城に入って一階の広間で待て。俺が許した者以外、決して階段を上るな。視界に入ったやつは真二つに叩き斬る」
空には星が浮かび、石橋は完全にプルガドール湖の波に沈んだ。